腫瘍組織からがんを倒す細菌を発見 北陸先端科技大の研究

2023年5月17日 08:22

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UN(A-gyoとUN-gyoから成る複合細菌)が"阿吽の呼吸"によって癌細胞を倒しているイメージ。(画像: 北陸先端科学技術大学院大学の発表資料より)

UN(A-gyoとUN-gyoから成る複合細菌)が"阿吽の呼吸"によって癌細胞を倒しているイメージ。(画像: 北陸先端科学技術大学院大学の発表資料より)[写真拡大]

 がんという病気は以前と比べると、治る病気になってきた。とはいえ、まだまだ日本での死因の第1位である。

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 現在、がんの主な治療法として、外科手術、化学療法、放射線療法、がん免疫療法などが行われている。1つ治療法が増えることは、がんに打ち勝つためには重要なことだ。北陸先端科学技術大学院大学の研究グループは、新しい治療法としてがん細菌療法を開発した。がん細胞のみを破壊するように遺伝子を変えた細菌を利用して、がんを治療する方法である。

 この研究を行ったのは、北陸先端科学技術大学院大学の都 英次郎准教授の研究グループである。研究成果は、8日の「Advanced Science」誌のオンライン版に掲載されている。

 がんは、正常な細胞に起こった突然変異などが原因で細胞が無限に増殖し、正常な細胞を障害してしまう病気だ。つまりがん細胞も正常細胞も、もとは同じ細胞であった。そのため治療のためにがん細胞を攻撃しようとすると、正常な細胞も一緒に攻撃してしまう。このことが抗がん剤が強い副作用を起こす原因の1つでもある。

 がん細胞のみを選択的に攻撃するため、その精度を上げていくことが、がん治療の目指すところでもある。

 腫瘍組織内に細菌が存在し、抗がん剤の作用に影響を与えていることは古くから知られていたが、これまでこの細菌を取り出してがんの治療に活用されたことはなかった。今回研究グループは、マウスの大腸がん由来組織から3種類の細菌を取り出し、それぞれA-gyo、UN-gyo、そしてこれら2つの細菌の複合体をAUNと命名した。

 これらの細菌を、がん細胞を移植した胆がんモデルマウスに投与したところ、腫瘍が増殖している低酸素状態の環境に選択的に集まることがわかった。そしてその環境で、増殖が可能であることを発見した。

 またそれらの細菌が高い抗腫瘍効果を持つことも判明。特にAUNは、免疫細胞を強く活性化し、様々な種類のがんに対して効果を発揮した。さらにこれらの細菌がマウスに与える影響を検査したところ、悪い影響は非常に少ないことがわかった。

 腫瘍の部分に集まったAUNに近赤外光を当てると、近赤外蛍光を発した。このことを利用して、腫瘍の診断にも利用していけることがわかったという。

 今回の発見により、細菌を用いた全く新しいがんの治療法や診断法が確立される可能性に期待できる。そしてがんの治療において、治療法の選択肢が増えていくことは、大きな進歩となるだろう。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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