5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (68)

2022年4月8日 07:26

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 競合プレゼンの時は異常に闘争心が湧くものです(主観)。そして、それには勝敗という結果が必ずついてきます。あなたの過去のプレゼンを思い返してみて下さい。「勝った時の喜び」と「負けた時の悲しみ」、どちらの気持ちが強く残っているでしょうか?

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (67)

 人間は「利得」した時と「損失」した時では「損得の感じ方(価値の感じ方)」が異なるそうです。行動経済学の「プロスペクト理論」では、この「損得の感じ方(価値の感じ方)」を数学的に「価値関数」として表現しています(*グラフ参照)。

■(68)敗北は、勝利の2.25倍の苦痛が待っている

 グラフを見て下さい。ヨコ軸は「損得の客観的価値」を、タテ軸は「損得に対する感情の動き」を表します。利益を得た時の嬉しさを1とした時、それと同じ金額を失った時の悲しさはなんと2.25という値になるそうです。つまり、利得の嬉しさに比べて、損失のショックは2.25倍になります。得と損では、それぞれの心理的インパクト(衝撃)が異なってくるのです。

 たとえば、投資で「1万円を儲けること」と「1万円を失うこと」は“絶対値的”には「同じ1万円」です。しかし、1万円を失うことは心理的インパクトとして、その2.25倍にあたる「2万2500円を失ったダメージ」となるわけです。

 このように、利益から得られる満足感よりも同額の損失から得られる苦痛のほうが大きいことから、人は、「損失を利益より大きく評価し、損失を回避しようとする人間心理」が働きます。これを「損失回避性」と言います。

 さて、「負け癖がつく」という言葉がありますが、どうも本当のようです。もう1度、グラフを見て下さい。第3象限にある1回目の損失点から2回目、3回目の損失点に続く曲線の勾配が徐々になだらかになっています。

 これは参照点(基準点)から離れるほど「悲しみ」の感覚が鈍っていく様を示しており、「最初の悲しみと比べ、追加の悲しみは衝撃が小さい」ことがわかります。つまり、負けを重ねるごとに、悲しみ・苦痛・屈辱のインパクトが下がっていくのです。

 私は、この心理的インパクト(衝撃)の鈍化が「慣れ」という惰性を生み、「負け癖」を誘発するのだと思っています。

※参考文献:「サクッとわかるビジネス教養 行動経済学」

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

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