新型コロナの感染力を抑える抗体を作成 治療薬に期待 慶應大ら

2021年2月21日 07:35

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ウイルス中和実験の概要。(画像: 慶應義塾大学の発表資料より)

ウイルス中和実験の概要。(画像: 慶應義塾大学の発表資料より)[写真拡大]

 抗体は、生物が細菌やウイルスを撃退ために体内で作り出す分子の1つであり、中でも、感染に重要な部位に結合し感染をブロックするものを「中和抗体」という。慶應義塾大学などの共同研究グループは18日、新型コロナウイルスを失活させる中和抗体を、人工的に作成することに成功したと発表した。

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 研究グループのメンバーである慶應義塾大学医学部は、田辺三菱製薬との共同研究契約を締結。今後、作成した中和抗体について解析を進め、新型コロナの治療へと実用化されていくことが期待される。

 合同研究グループには、慶應義塾大学の竹内勤教授、竹下勝特任助教、佐谷秀行教授、滋賀医科大学の伊藤靖教授、理化学研究所の福山英啓副チームリーダー、理研生命機能科学研究センターの白水美香子チームリーダー、国立感染症研究所の高橋宜聖部長、森山彩野主任研究官らが参加している。

 ウイルスや細菌に感染したとき、ヒトの体内では免疫の働きでウイルスを排除するための抗体が作られる。そのため新型コロナウイルスに感染し回復した患者の血液中には、新型コロナを排除する抗体が含まれている。海外では、新型コロナに感染した患者の血漿を、感染中の患者に投与するという治療が行われている国がある。血漿中の中和抗体が、新型コロナを排除する働きをしていると考えられるからだ。

 新型コロナが細胞に感染するとき、ウイルスが持っているスパイクタンパク質が、細胞が持つACE2受容体に結合する。この結合を足掛かりにして、感染するのだ。つまり中和抗体は、この最初のステップを阻害する抗体と考えられる。

 共同研究グループは、新型コロナから回復した患者の血液を分析し、中和抗体を多く作るB細胞(抗体を作る働きを持つ血液細胞)を採取、そのB細胞が作る抗体の遺伝子配列を明らかにした。その遺伝子配列を元にして、人工的な抗体を400種類以上合成。これらの合成抗体の中から、新型コロナが感染するときに重要な分子である、スパイクタンパクと細胞上のACE2の結合を強く阻害するものを選別した。

 さらに研究グループは、選別した人工抗体が実際の新型コロナの感染をどの程度防げるのかを検討。まず人工抗体と新型コロナを混ぜ、次に混ぜたものをヒトの培養細胞に加え、感染したかどうかを確認した。すると、1μg /mlの濃度でも完全に感染を防ぐことができる人工中和抗体を11種類得ることができたという。

 この人工中和抗体を治療薬として実用化していくことを目指し、共同研究チームは動物への投与実験を始めている。米国ではすでに20年11月に中和抗体製剤が実用化され、新型コロナ感染患者に投与されており、一定の効果を認めつつあるという。今回、国産の中和抗体製剤が実用化され、新型コロナに感染した患者の重症化を防いでいくことに期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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