クシクラゲが海の発光生物たちの「光の素」を産生することを発見 名大ら

2020年12月13日 19:21

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カブトクラゲの仲間の発光の様子(画像: 名古屋大学の発表資料より)

カブトクラゲの仲間の発光の様子(画像: 名古屋大学の発表資料より)[写真拡大]

 発光生物と聞けば、ホタルやクラゲを思い浮かべるだろう。これらの生物は体内に持っている発光物質を使って美しい光を作り出している。海に住んでいる発光生物の多くは、セレンテラジンという共通の発光物質を持つが、これらの生物はセレンテラジンを自分自身で作ることができず、餌として食べて取り込んでいる。

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 ではこのセレンテラジンは、どこでどのようにして作られているのだろうか。名古屋大学らの研究グループは、実験室で飼育可能なクシクラゲが、セレンテラジンを合成することを発見したと発表した。今後セレンテラジンが作られるメカニズムを解明し、さらに生化学分野に貢献していくことが期待される。

 この研究は、名古屋大学の別所-上原学特任教授らのグループが、米国モントレー水族館研究所、モントレー水族館、マサチューセッツ工科大学、マイアミ大学との国際共同研究により行ったもの。研究結果は10日、iScienceに掲載された。

 オワンクラゲで発見されたセレンテラジンは、多くの発光する海洋生物が発光の材料として利用していることが分かってきていた。発光生物たちはセレンテラジンを餌として摂り続けないと発光する力を失ってしまう。しかし、セレンテラジンを合成できる生物としては、希少な深海性カイアシ類と深海性エビの2種類しか知られておらず、しかも実験室での飼育が困難なものだった。

 今回研究グループは、野生のクシクラゲがセレンテラジンを持つかどうかを調べた。すると発光するものからはセレンテラジンが検出された一方、発光しないものからは検出されないことが明らかになった。一方、米国のモントレー水族館は様々なクシクラゲの飼育に挑戦しており、最近になって継代飼育に成功した。

 そこで、クシクラゲの中でも発光するキタカブトクラゲと、発光しないフウセンクラゲについて、セレンテラジンを含まない餌だけを与えて飼育を実施。餌の中にある発光物質の影響がなくなっていると思われる孫の代の卵を観察したところ、キタカブトクラゲの卵は発光しており、セレンテラジンを持っていた。

 餌やフウセンクラゲからは、セレンテラジンは検出されなかった。この結果から、キタカブトクラゲは自分自身でセレンテラジンを産生できると考えられる。さらに同じ条件下で、15代目まで飼育したカブトクラゲの仲間も発光しており、セレンテラジンを持つことも確認された。

 今回、飼育方法が確立し、ゲノム解析も完了しているクシクラゲでセレンテラジンが合成されていることが明らかになったことより、今後の研究によってセレンテラジンの合成経路が明らかになっていくだろう。

 また、細胞や生物を生きたままでその遺伝子やタンパク質を観察する手法である「発光イメージング」という技術においても、これまでは発光の材料としてのセレンテラジンを供給し続けなくてはならなかった。だが今後は、合成に必要な遺伝子を組み込むことで、自身で材料を供給し続けることができるようになる可能性もある。これらにより、発光イメージングの技術は大きな進歩を遂げることが期待できる。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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