5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (28)

2020年3月13日 07:05

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 博報堂が不夜城と言われていた田町時代の話です。ある時期、私の隣席は堺雅人風味のSK間くんという青年が座っていました。なかなかアイデアフルな人で、まー、毎晩シコシコ何か作業しているワケです。イラレをぶち込んだウインドウズマシンをカチャカチャ動かしていた彼に、私は訊ねました。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (27)

 「ナニ、作ってんの?」

 「手帳です」

 「はぁ?」

 そう、彼はテレビ東京の「TVチャンピオン 文房具大会」で準チャンピオンに輝いた文房具オタク。消しゴムのカスやシャープペンの芯の匂いを嗅いで、メーカー・商品名・品番まで当ててしまうという超絶レベルに達した「スパイク型人材」だったのです(ま、フリークスとも言います)。

 そんな文房具への偏愛が抑え切れなかった彼は、もうジブンで作るしかない!と決壊してしまったのでしょう。毎晩、憑りつかれたように手帳の設計をしていました。

 「コバヤシさんっ! プロトタイプができましたっ!! 意見をくださいっ!」

 激アツなSK間くんに試作品の意見を求められた私は、ネガティブポイントをオブラートに包まずに全部伝えたら、マジギレされてしまいました。彼はジブンの設計に確固たる戦略とそれを最後まで信じ切れる論拠を持っていたのです(じゃ、訊くなよ~という話なんですが・・・笑)。

 設計にメドがついたあと、彼は、紙質と印刷会社を選び、単価計算し、市場価格を決めて、大手文房具メーカーや大手書店の社長宛てに胸アツな手紙を出していました。そうして、ついに某メーカーの自主プレゼンにまで漕ぎ付けたのです。

 結果は……紆余曲折を経て商品化。大ヒット商品となりました。付属品も別売する展開力のある手帳開発を単独でやり切ったのです。

■(30)バランスの悪い、尖った人が、最短で成果達成できるリーダーだ

 「多人数で大きな仕事を!」はどこの企業でもよく聞くフレーズです。複雑化したマーケティング施策を成功させるために多くの人材を巻き込んで設計していくことは、今や必須であり、全否定できません。

 それでも、私は「最少人数で大きな成果を!」を提唱しています。正しくは「最少人数で各自が深いエンゲージメントを!」です。少人数での進行については企画の矮小化や1人に課される作業負担の重さを懸念されがちですが、経験上、問題になったことはありません。

 そもそも、コアアイデアからエグゼキューションまでトライアンドエラーで組み上げていく場合、こうした少数精鋭で進めた方が修正時の合意形成がスムーズで、結果、目的がブレにくいというメリットがあります。尖ったまま、速く目的地に着けるのです。

 そのためには、数少ないチームメイトたちに各自重責を背負わせることが必須です。「重責を背負う」ことは、「リーダーシップの発揮」とも言い換えられます。デザインが強い。コピーが巧い。企画力が高い。これら有用な専門能力を駆使して成果達成のために必要な役割を果たすこと。これがリーダーシップの概念です。この役割を意識することで、必ず想像を超えた働きが生まれます。

 たとえ、新人や平社員であっても、成果を出すための必要な資質を持っていれば、その人はリーダーになれる人です。たった1人のゲリラでも、10人という軍勢でも、チームの1人1人がこのリーダーシップを持っているか否かで成果の質は大きく変わってきます。ちなみに管理職はマネージャー、調整役はコーディネーター、いずれもリーダーではありません。

 私が当時のSK間くんにシンパシーを感じたのは、単独でヒット商品を生み出したこと以上に、その成果達成のために手段を選ばず、自身の勝ちパターンで突破していく、その異常なまでのスパイクの強さにグリップされたからだと思っています。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

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