新入社員の「人並みに働く」をなぜネガティブにとらえるのか

2019年7月1日 19:16

印刷

 日本生産性本部ほかが実施した2019年春入社の新入社員を対象とするアンケート結果で、「人並みに働けば十分」と答えた人が63.5%、「好んで苦労することはない」との回答が37.3%と、いずれも過去最高となり、人並みの働き方で、苦労を避けたいと考える傾向が明らかになったとのことです。

 調査の中で、「人並み以上に働きたい」は29.0%で過去最低となり、「人並み」との差は34.5ポイントまで開いて、こちらも過去最高とのことです。
 調査元では「新入社員の自殺やブラック企業が問題となり、積極的に働くことに抵抗を感じているのではないか」と分析しています。

 私の周りに多い、新入社員よりも大きく上の年代の中に、この話題を圧倒的にネガティブに批評している人たちがいます。極端なものでは「仕事を甘く見ている」「社会をなめている」などの全否定に近いものから、そこまでではなくても「そんなに思い通りにはならない」「そうはいかない」など、どちらかと言えば苦言のニュアンスが多く聞こえてきます。

 私はこの「人並みに働けば十分」の考え方が、なぜ問題なのかが理解できません。一番大きな理由は、「自分も新入社員の頃はそうだったから」です。さらに今でも、心のどこかでは「人並みに働けば十分」と思っています。ただし、今は仕事を面白いと思ってやっているのと、毎月決まった給料をもらえない立場で、生活のためにはそれなりに働かなければならないので、人並みよりは少しだけ余分に働いているかもしれません。

 「人並みで十分」に批判的な人のほとんどは、仕事を通じて何かを成し遂げたという自覚がある人で、もう少し言えば、人生の中で仕事の優先順位が高い人です。
 しかし、みんながそうでなければいけないことではありません。「仕事」よりも「家庭」「友人」「趣味」「遊び」を優先する人はいるでしょうし、そもそも優先順位というのは、その時に置かれた状況やその人の価値観、人生経験によっても変わっていくものです。ずっと変わらない人もいるでしょうし、頻繁に入れかわる人もいるでしょう。
 新入社員も、みんながみんな仕事に燃えている訳はありませんし、そうでなければいけないものでもありません。

 しかし、対象物が「仕事」となると、どうもその優先順位を高めなければならないかのような、無言の圧力があちこちにあります。「無職」「職業不詳」などといわれると、いかにもダメな人のような見方をしますが、意識的に前向きな理由で仕事をしていない人は、世の中に大勢います。
 「仕事」を人生修行のようにとらえて、苦しくてもそれに取り組むことが美徳のような話がありますが、そもそも日常生活に組み込まれている「仕事」が、そんなつらいものである必要はありません。
 最近はずいぶん変わってきましたが、日本人の中の「労働が美徳」という意識が、相変わらず少し行き過ぎている感じがします。

 私がよほど問題だと思うのは、社会人になりたての新入社員が、「仕事は人並みでよい」といいたくなるような、仕事の価値が高くないと感じさせてしまう環境を作り出した、私も含めた先輩社会人たちの責任です。
 ブラック企業で「仕事」を通じて若者から様々な搾取をおこなったのは、まさに先輩社会人ですし、過重労働での病気や自殺といった話も同じです。会社や上司の愚痴や悪口など、楽しそうに仕事をしている姿が少なければ、特に若者にとっては「仕事」の優先順位を下げる効果しかありません。

 こんな中で、今の私にできるのは、「楽しそうに仕事をしている姿を周りに見せること」しかないと思っています。幸い私の周りには、「楽しそうに仕事をしている大人」が大勢いるので、そんな人たちを新入社員が見れば、感じ方はまた変わるでしょう。

 仕事が常に最優先である必要はないですし、もしそうさせたいならば、もっと「仕事」が楽しそうに見えなければならないと思います。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

著者プロフィール

小笠原 隆夫

小笠原 隆夫(おがさわら・たかお) ユニティ・サポート代表

ユニティ・サポート 代表・人事コンサルタント・経営士
BIP株式会社 取締役

IT企業にて開発SE・リーダー職を務めた後、同社内で新卒及び中途の採用活動、数次にわたる人事制度構築と運用、各種社内研修の企画と実施、その他人事関連業務全般、人事マネージャー職に従事する。2度のM&Aを経験し、人事部門責任者として人事関連制度や組織関連の統合実務と折衝を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表。

以降、人事コンサルタントとして、中堅・中小企業(数十名~1000名規模程度まで)を中心に、豊富な人事実務経験、管理者経験を元に、組織特性を見据えた人事制度策定、採用活動支援、人材開発施策、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務の支援など、人事や組織の課題解決・改善に向けたコンサルティングを様々な企業に対して実施中。パートナー、サポーターとして、クライアントと協働することを信条とする。

会社URL http://www.unity-support.com/index.html

記事の先頭に戻る

関連キーワード

関連記事