【コラム 山口利昭】コーポレートガバナンス・コードの実務対応に関する素朴な疑問

2015年4月15日 18:04

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【4月15日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 ひさしぶりの「素朴な疑問」シリーズであります。聞くは一時の恥、聞かぬは・・・と申しますので、あえて今ホットな話題のコーポレートガバナンス・コードの実務対応に関する疑問です。うーーーん、よくわかりません。ホントに素朴な疑問なので、もし前提のところで誤っておりましたらごめんなさいです(訂正させていただきます)。

■疑問その1 ガバナンス報告書の提出期限について


 東証規則により、ガバナンス・コードの開示事項については(原則として)コーポレートガバナンス報告書に記載することになります。6月定時総会の上場会社の場合、遅くとも今年の年末までにコーポレートガバナンス報告書への記載を済ませばよい、とのことですが、では来年3月定時総会の会社の場合はどうなるのでしょうか?来年の3月から6カ月の猶予期間あるのか、それとも3月総会の後すみやかに提出(つまり4月中に記載)をしなければならないのか?もし3月総会の会社が、総会から6カ月の猶予があるとすると、6月総会の会社が2回目の記載を済ませた後に初めて(適用後の)ガバナンス報告書を提出するということになるので、これはおかしいのではないでしょうか。ということは来年3月とか5月総会の会社は原則どおり速やかに提出する、ということになるのでしょうかね?「適用初年度のみ猶予期間あり」とみるならば、どんなに遅くとも2016年の5月末までに報告書を提出せよ、ということでしょうか?

■疑問その2 ガバナンス・コードの趣旨・精神の尊重義務について


 コードへの対応実務として、コンプライ・オア・エクスプレインの「コンプライ」と「エクスプレイン」は同価値かどうかはひとつの疑問ですが、東証の有価証券上場規程では、445条の3によってガバナンス・コードの趣旨・精神の尊重義務が規定される予定です。この規定をもとに、「いくらエクスプレインでもよいといっても、コンプライすることが大切」との解説が多いようです。しかし、そもそもガバナンス・コードの趣旨・精神というのはプリンシプルベースの規制であることの趣旨を指しているのではないでしょうか。つまり「コンプライ・オア・エクスプレイン」であることが趣旨であり精神だといった理解も成り立つのでは?たとえ「努力義務」であったとしても、ここで東証ルールを持ち出すとルールベースの規制になってしまわないのでしょうか。コードでは対話のための付加価値ある開示が求められているのであれば、何も開示せずにコンプライするよりも、むしろ自社にふさわしいエクスプレインを行うほうがガバナンス・コードの趣旨・精神、つまりコードの趣旨に合致するように思います(つまりコンプライとエクスプレインは同価値とみたほうが自然だと思います)。

■疑問その3 コード補充原則1-2(2)はプリンシプルか?


 補充原則1-2(2)は株主の議決権行使に関する(早期の招集通知発送等)環境整備についてのコードですが、その内容はすでに有価証券上場規程446条および同施行規則437条で具体的にルール化されています(「望まれる事項」という、いわば上場企業の努力義務ですが)。そしてこの上場規則はこのたびの改定で変更される予定はありません。しかしいくら努力義務とはいえ、すでに上場規則でルール化されたものは、もはや従わなければならないものであり、説明責任を果たしつつも従わなくてもよいことを前提とするエクスプレインはありえないのでは?つまりルールであるにもかかわらず、プリンシプルベースのコードが併存するというのは矛盾ではないでしょうか?

■疑問その4 第2章「ステークホルダーとの適切な協働」の実効性は担保できるか?


 株主との対話によって実効性が担保されるべきガバナンス・コードについて、その第2章ではステークホルダーの利益配慮に関するコードが示されています。しかし株主がいくら中長期的な企業価値向上に向けた対話を行うといっても、株主以外のステークホルダーの利益配慮に向けた企業行動にどれだけ関心を向けるのでしょうか。第2章のコードは経営方針等の開示によって公表されることになりますが、とくに内容にまで踏み込んで東証の審査がなされるとは思えません。スチュワードシップ・コードにも指針3-3において社会、環境配慮に向けた対話ということは記載されていますが、「利益配慮」ということまでは踏み込んでいないと思われます。ではこの第2章はいったい誰がどのような方法で企業のコード遵守の実効性を担保するのでしょうか。

 上場会社として、実際にガバナンス・コードに沿った取締役会改革を行おうとしますと、いろいろと疑問が湧いてきます。やはりプリンシプル・ベースであり、コンプライ・オア・エクスプレインであるといっても、たとえば20年の経験をもつ英国の実務などを詳細に調査してみないと対応がむずかしいと感じますね。私の事実誤認や誤解に基づくところがあるかもしれませんが、同様の素朴な疑問を抱いている方も多いかもしれません。もしお詳しい方がいらっしゃいましたらお教えいただければ幸いです。【了】

 山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
 大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

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